察するに、最も伝えたいポイントが上手く表現できなかったのでは。もちろん緊張もあったとは思うが、岩井主宰をその場のパフォーマンスで味方につけるというボーナスもあったので、惜しさが上回った。虎の全員が特に薄毛に悩んでいないというのもくじ運が悪かったのかもしれない。
終盤になって、看板は出さない、外からは何の店か分からないという事実が出てきて、やっと志願者の目指したい形が分かったような気がした。三浦会長がかなりぐいぐい突っ込んでいたが、おそらく技術はそこまで重要ではないのだ。もちろん無いよりあった方が良いが、例のパウダーを使ったり、自宅での再現性を追求していけば、技術が占めるメリットは減る。それよりも、まるで会員制クラブや会員制バーのようなちょっとしたVIPな雰囲気で、自身の薄毛をマンツーマンで相談できる、そういった心理的なケアが大きいのではないだろうか。
外からは何の店か分からない、そこにスッと入店するほのかな優越感。そして入ったら半個室で美容師とマンツーマン。いわゆる「専属」の形。オープンカフェのような流行のオシャレな美容室とは異なり、こっそり美容師に薄毛の悩みを相談できる。完全に剥げてはいない。しかし、増毛したい訳でもない。そんな微妙~~~なニュアンスとグラデーションの狭間にあるコンプレックスを、この専門店でフォローしていく。薄毛専門のカウンセリングとでも言おうか。しかしそれではちょっと集客と利益に問題がでるので、「薄毛専門のカット・セット美容室」とするのだ。値段はその辺の理髪店より高くても、カットの技術がそう変わらなくても、場が重要なのだ。チェーンの居酒屋で飲むハイボールだって、暗い照明とお洒落なジャズが鳴るバーカウンターで飲めば数倍美味しい。
抜本的に改善したい訳ではなく、あくまで現状のまま、必要に応じて工夫で良くしていきたい。コンプレックスへのフォロー策としてこういったアプローチには需要があると考える。白でも黒でもない灰色の客を上手く取り込むビジネスモデルだと思うのだが、どうしても議論の内容が「専門的な技術で薄毛を救えるか」に傾いてしまった。そこが残念であった。
常に志願者に寄り添った会話を繰り出す高澤社長が見どころ。